仏蘭西紀行

1 出発

 1989年8月30日。現地時間で朝の7時過ぎ。ボクは憧れの地、フランスは シャルルドゴール空港に降り立った。

   大学3年の夏、何を思ったか急に外国へ行きたくなった。本当に急に。何故そうなったのかは未だに良く解らない。でも、ボク達がとる行動というものは多かれ少なかれそんなもので、きっと大した理由など無い。    さて、そこからは早かった。行くならフランス(昔からとても憧れていた)。勿論一人。手段は自転車。とポンポン決まり、パスポートを取り、チケットのキャンセル待ちを入れ、フランスのロードマップを買った。これで準備は整った。初の海外。何かまだ準備が足りていないような気もしたが、良く分からないのでそのまま準備は何もせず、まだチッケットが取れるまで時間がたっぷりと有ったので、北海道にツーリングに出かけた。そして、北海道から帰ると出発まではもう1週間も無かった。

 出発当日、愛車のランドナーを輪行袋に詰める。流石にいつものイイカゲン輪行とは気合いが違う。リアメカ、ギアクランクまでも外し、外したものは全てエアパッキング(空気の入ったプチプチのアレでくるむ事です)。いつもの何倍もの時間が掛かる。前日のうちにやっときゃ良かったと嘆いてみても仕方がない。そしてそこにテント、ポール、シュラフ、マット、etc…。詰め込めるモノは何でも詰め込む。これだけ詰め込んだ輪行袋は20kgを優に越えていた。当然、担ぐと重たい。でも荷物はこれだけではない。サイドバッグが2個、フロントバッグ、そしてデイバッグ。これで飛行機に乗れるのだろうか?大丈夫、追加料金も払わずに乗ることが出来た。

 シャルルドゴール空港に着いてからまず、TC(トラベラーズチェック)を現金に交換しタバコを買った。何でも無いことのようだが、これだけの事にも苦労した。ここはフランス。勿論言葉はフランス語。第2外国語でフランス語を習ったとはいえ、なにひとつ身についてなんかいない。キオスクのお姉さんに「C'est,C'est」(それそれ)とラッキーストライクを指さしながら言ってみたが、お姉さんはキャメルをくれた。「それやない!」と言いたかったけど、フランス語で言えない。まぁいい。ここでラッキーストライクが買えなかったからと言ってどうなるものでもない。大体、ボクはいつもキャビンを吸っていたのだし、それが無いならラッキーストライクでもキャメルでも同じ事。そのキャメル、日本円に換算してみると、日本で買うのと大して変わらない。案外高いんだなと思ったのを今でも良く覚えている。

次にパリ市内へ行くためのバスを探す。こんな大荷物で果たして乗せてくれるのだろうか?結果として、そんな心配は無駄に終わった。乗せて貰えるかどうか以前に、バスを探しきれなかったのだ。字が読めない!辛うじて読めはしても意味が全く解らない。何処がバス乗り場で、どのバスがパリ行きなのか皆目解らない。せめてそれくらいの下調べはしておくべきだった。初の海外だったので、何を調べておけば良いのか、そのこと自体が解らなかったのだから仕方がないのだけど…。

 バスに乗ることを諦めたボクは、適当な場所を見つけて自転車を組み立てることにした。バスがわからないなら自走で行けばいい。そういうことだった。


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