仏蘭西紀行

10 リヨンでの挫折

 9時過ぎの起床。ボクにしてはまぁまぁ早起きした方だ。天気はあまり良くは無いけど、悪くも無い。グウタラしているウチに出発は11時頃となる。何故か早めに出発することが出来ない。

 1kmも走らないうちに街を出る。1時間も走ればリヨンに到着。すなわち昼過ぎ。インフォメーションがあったので、ホテルの予約をしようと思い立ち寄ったが、言葉が通じなくて敢え無く退散。仕方がないのでテキトーに探して入ったホテルは、「場末」って言葉がぴったりの一つ星。シングルで97Fとまぁ安い。宿の女主人は一応英語が通じたので助かった。しかし、そう思ったのも束の間。言葉の壁ではなく、文化の壁にブチあたる。より正確に言うなら、文化の違いによると思われる感覚の違いと言えばいいのだろうか。と言うのも、彼女がこのホテルの規則について簡単に説明してくれたときのこと。「ミッドナイトには玄関の鍵を閉めますので、それまでにはお帰り下さい」と言うので、「オウケイ、ところで何時になったら鍵を閉めるのですか」と尋ねると、「ミッドナイト」と彼女は素っ気なく答えた。「夜中っちゅーのはわかるけど、そうやなくて何時になったら鍵閉めるんや?」とさらに尋ねると、彼女はやや荒い口調で再び「ミッドナイト!」。やれやれ。ボクは会話を諦め、適当に「オウケイ」と答え、夜は少し早めに帰ってこようと思った。

 後になって解ったことだが、「ミッドナイト」とは日本語にすると「夜中」もしくは「真夜中」となるわけだが、日本語に於ける「夜中」あるいは「真夜中」というのは、ある種イメージ的なもので、具体的に何時から何時頃迄と言う感覚は無いのでは無かろうか。(或いはそれはボクだけ?)そんなあやふやな感覚に対し、彼女たちフランス人(或いはヨーロッパ人)にとって「ミッドナイト」とは厳然たる「ミッドナイト」であって、そんなあやふやなものでは無いらしい。具体的には大体夜の0時から朝の4時、5時あたりのようだ。そしてその次がアーリーモーニングとなり、次いでモーニング、ヌーン、アフタヌーン、イブニング、ナイトと続くようで、それぞれに大体何時から何時頃迄という感覚があるらしい。フム。

 さて、リヨンでは昼頃にはホテルに入り、シャワーを浴びて髭を剃り、ちょっと小綺麗なジャージに着替えて外に出て、あたりを散策。途中、カフェテラスでコーヒーを飲みながら、街を行き交う人々を観察しながら眺める。
 夜はレストランでちょっと贅沢に食事をし、帰りにはバーに寄ってちょっと一杯。などと思い描いてはいたのだけど、実際はどうだったかというと…。

 ホテルに入り荷物を置いてとりあえず外に出る。タバコを買って、マクドナルドに入って、雑誌を買ってホテルに帰る。ベッドに横たわると気持ちよくて寝てしまう。だって、実に一週間とちょっとぶりのベッドなのだ。それにしても目覚めればすでに7時。なんてこった。急いでシャワーを浴びる。手持ちの中でもっとも綺麗なジャージに着替えて、ヨシ、レストランに入るぞ!と気合いを入れて外に出てブラブラする。さて、何処に入ったものか。多少悩んだものの、店を選ぶに際し、自分の中に何の基準も無いことに気付く。とにかく中に入って席に座ってもうたら勝ちや!とテキトーな店を見つけて入り、席に着く。そしておもむろにメニューを拡げる。ウッ!読めない…。どうにか読めても何のこっちゃさっぱりわからん。ボーイも来ない。
うぅ〜っ。出てきてしまった。結局夜もマクドナルド。あぁ情けない。

 しかしまぁ、何はともあれ、ここリヨン迄で約600km。海まではあと約400kmだ。


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