仏蘭西紀行

11 悲劇の始まり方

 ついてない。どうもついてない!だいたい、リヨンには連泊するはずだったんだ。 それが日曜でT/C(旅行小切手)を換金出来なかったがために、一泊で出て来ざるを 得なかったこと自体からしてついていない。ブラブラ走っていると、日にちの感覚は あるものの、曜日の感覚が無くなってくる。それでつい土、日の事を、銀行の休みの ことを忘れてしまう。

 そこそこの一流ホテルに泊まれば、T/Cでの支払いも可能だろうが、ボクの泊まる ような安ホテルやキャンプ場では現金しか受け付けてくれない。当然と言えば、あま りにも当然の話だが。ボクはこれで結構せこいので、T/Cを換金するとき、必要最小 限しか換金しない。まぁ、そのおかげでこの旅はかなり切り詰めることが出来たので はあるが。それにしても、だ。世の中お金が全てでは無いだろうけども、しかし、か なりのウエイトを占めるのも確かだ。お金は大事。

 リヨンを出てすぐ、おなかがすいたので、現金があまりないことも考えずに20F ちょっともパンを買って食べてしまった。これが悲劇の始まりだ。始まりなんていつ だってこんなもんだ。いつの間にか勝手に始まっていて、あとになってそれが始まり だったことに気付く。いつだってそうだ。鈍感なんだ。それにしても、それ以後は何 か食べたくても、日曜でなかなか開いている店がないのと、現金が無いのとで、ほん の少し残っていたカステラみたいなお菓子を食べただけで一日を走りきった。

 途中、タバコ休憩をして、そこにタバコとライターを忘れたまま30分程も気付か ずに走ってしまった。急いで引き返す。なんせ、愛着のあるジッポーだったから失い たくなかったのだが、戻ってみると、無い。さきほど休憩した場所に、それらは無 かった。すぐそばに何かの会社の門があり、そこの守衛のおじさんがいる。休んでい たとき少し話をしていたので、そのおじさんに尋ねてみた。すると、なんていい人な んだろう。ちゃんと保管してくれていたのだ。ボクは知っている限りの言語で「有り 難う」を言った。そのうちのひとつか二つくらいは通じたことだろう。しかし、これ で15kmほどのロス。

 暑いし、アップダウンは多いしで、走る気がおきない。途中で道も間違えた。リヨ ンで連泊できなかったので疲れが貯まっているのだろうか。それに加えて、ハンガー ノック気味で、もう今日の走行は終えよう、終えようと思いながらも、ビール呑みた さにBARを探して小一時間、約25km。やっと見つけて、いざ入らんと現金を確か めたら20Fちょいしかない。このお金でビールを呑むべきか、キャンプ場に泊まる べきか、ボクは悩んだ。言い換えれば、一瞬の快感をとるか、一晩の快適をとるか。 悩んだ末、ボクはキャンプ場を選んだ。ボクだって多少はまともなことも考えられる のだ。自慢じゃないけど。

 とりあえず、20Fもあれば余裕でキャンプ場に泊まれると思っていたのだが、な んと見つけたキャンプ場は19Fとひとの足下を見るように結構高い。確かに、その 分設備は良かったのだが。とはいえ、おなかがすいていたのもあって、この19Fと いうのにかなり苛つく。まぁまぁ落ち着けとばかりに、タバコを一服と思ってみて も、そのタバコがない。そこで更に苛つく。結局、シケモク。吸い殻を捨てずにポ ケット吸い殻入れに持っておいて良かった。しかし、ついてない。

 この日、このキャンプ場でスイス人のサイクリストに出会い、少し話をした。彼は フランスを一周中だそうだ。とてもそんな自転車には見えなかったけど、旅は道具 じゃない。旅は行動力だ。



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