仏蘭西紀行

12 アヴィニョンの橋で

 9月17日月曜日。8時半に起きた割には出発は10時と、随分ゆっくりと過ごす。まず、銀行を探してすぐにT/Cを換金する。こっちの銀行は日本のそれとは違って、内と外は自動ドア1枚で区切られているのではなく、まず自動ドアで中にはいるとすぐにまた自動ドアがあるのだが、このドアとドアの間で危険人物ではないかどうかのチェックがあり、そのチェックでオウケイだと(まず普通はオウケイだ)、信号のようなランプが青に変わりドアが開く。更にカウンターの内と外はかなり分厚い透明の板で仕切られており(仕切り板は完全に天井まで続いている)、お金などの受け渡しに必要最小限の横長の穴が開いているだけだ。この厳重さが、逆に犯罪の多さを物語っている。ハンパな防犯態度ではない。マジなのだ。

午前中の走行は24kmほど走って辿り着いた、ヴァルンス(Valence)まで。大きなスーパーマーケットがあったのでそこで買い出しと昼食。買い出しをしてからは重装備となる。なんせ4、5日分のちょっとした食糧、米などを積み込むんだから。一挙に7〜8kgもの荷物か増えることになる。そんな重装備にもめげず、昼からはかなり調子よく走れた。風が追い風気味だったことにも救われた。普段、重装備の平地走行では滅多に使用することのないアウター×トップのギアも度々。かなり調子が良いのだ。昼からだけで約110km。「アヴィニョンの橋」で有名なサン・ベネゼ橋のあるアヴィニョン(Avignon)の街まであと30kmちょいのところ。

 途中2回もキャンプ場の標識に騙された(というと人聞きが悪い。ただたんにボクには見つけきれなかっただけのことなんだ)。だいたい、夕方も5時を過ぎてくると、目が自然とキャンプ場の標識(ないしは看板)を探している。昨日の19Fは高かったけど、15Fくらいでシャワーの付いたキャンプ場なんてサイコーだもの。そんなわけで、この日はとうとうキャンプ場を見つけきれず、諦めて普通にテン張ることに決めたこの村は、モルナ(Mornas)のヒストリック村(Village Historique)の中にあるちょっとした公園のようなところ。すぐ近くには水道もある。

 このヒストリック村は、後ろに絶壁をかかえた小さな村で、「閑静な佇まい」という言葉はこの村の為にあるのではないかと思えるくらいの落ち着いた静けさがある。背中にかかえた絶壁の崖の上には鉄道が走っていて、そこをたまに列車が通る。この列車が通り過ぎる音は決してうるさくなく、かえってこの村の静けさを強調させる。変な言い方だが、物静かなうるささである。ちょっとした路地がまたいい。この路地もまた静かなのだ。ユトリロの絵のような感じ。人気のない静かさでは無い。生活のある静けさ。なんだか温かい静けさなのだ。そんな路地のひとつひとつに名前がついているがまたいい。(ヨーロッパでは当たり前のようだけど)

 これにあとビールさえあれば、ビールさえ呑めれば何も言うことは無いのに…。今日もボクはビールが呑めなかった。

 翌日の走行はたった40km。こんなもんだ。いくら昨日は調子が良かったとは言え、その分ちゃんと疲れはきているようだ。目覚めれば昼近く。テントを畳んでまたウトウト。結局出発したのは3時前。1時間ちょっと走ってアヴィニョンに到着。アヴィニョンではあの途中で切れている「サン・ベネゼ橋」を見物する。そこlから更にマルセイユに向けてN.7を少しでも行っておこうと思い、アヴィニョンからN.7に抜ける道を探していると、なんとアヴィニョンの街の外周を一周してしまい、また元のサン・ベネゼに戻ってきてしまった。なんてこったい。先に進むことを諦めたボクは、そこからすぐの所にあった、ローヌ川沿いのキャンプ場に入る。かなり大きなキャンプ場で、レストラン、バー、それにコインランドリーまである。これで15.4F。まぁこんなもんだ。

 このキャンプ場で、なんと一昨日のスイス人サイクリストと再会する。彼、昨日はモンドラゴ(Mondragon−ヒストリック村より10kmほどヴァルンス寄り。すなわち、昨日はボクの方が彼より10km多く走ったことになるわけだ)に泊まったそうだ。再会と互いの旅の前途を祝してビールで乾杯をした。うまい!んだなぁ、これが。リヨンを出て以来我慢し続けて、やっとありついたビールは最高にうまかった。

 さぁ明日はマルセイユ。海だ!ざまぁ〜カンカン、海!!



ヒストリック村への入り口
  
どんな小さな路地にも名前が付いている

ヒストリック村のたたずまい

ヒストリック村の公園

街は城壁のようなものでグルリと囲まれている 村上春樹の描く「世界の終わりの街」のよう
  
アビニョッンの城壁から 向こうにかすかに見えるのがサン・ベネゼ橋

サン・ベネゼ橋の入場券

「アヴィニョンの橋」ことサン・ベネゼ橋

サン・ベネゼ橋

サン・ベネゼ橋の上
   

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