仏蘭西紀行

16 ソフィー・マルソーが好きだった

TGVはトレインNo.820。12時13分に出発して、パリのリヨン駅に16時 59分に到着する。これに決めた。今となっては何故このNo.820にしたのか、資 料が残っていないのでわからない。ボクは自転車を盗まれてから、記録をとることを 止めてしまったのだ。きっと何かしらの理由があったのだろう。いや、もしかしたら 何の理由もなかったのかも知れない。

 翌日、「みどりの窓口」のようなところへ行き、時刻表のトレインNo.820のと ころを指さし、一言「セカンドクラス」。お姉さん(だったっと思う、確か)は早口 でペラペラとかなり業務的に喋り、何か2−3、ボクに尋ねたようだったが、良くわ からないので、首を縦に振っておいた。大丈夫。心配する事なんて何もない。ちゃん と、乗車券と予約券を買えた。なるほど。指定席らしい。(実は自由席だと思ってい た)

 発車時刻まで少々時間をつぶす。とうとう自転車は見つからなかった。仕方がな い。諦めるしかない。せめて部品取りなんてせず、そのまま乗ってもらいたいモノだ が…と考えもしたが、果たしてどうなることやら。まぁ、盗難証明がもらえただけで も良かったとしよう。ボクにしてはかなり機転がきいたほうだと自分でも思う。そう いえば、ボクを担当した警察官はソフィー・マルソー(フランスの女優)を知らな かった。取り調べで、当然パスポートを提示させられたのだが、そのパスポートの中 に大好きなソフィー・マルソーの写真を入れていた。彼はそれを見て「これは何だ ?」とばかりにボクに突きつけた。まさか、フランス人なのに知らないとは。でもや はり知らないらしい。考えてみればそれも有りかも知れない。日本の警察官の全てが 薬師丸ひろ子を知っている訳では無いだろう。

 「フランスの女優だよ」とボクは言った(つもりだ)。すると彼は「おまえの何だ ?」(或いは「おまえにとって何だ?」)とボクよりもたどたどしい英語で尋ねてき た。「ボクは彼女のファンなのだ」という意味を込めて一言「ファン」と言ったが、 全く通じなかったようだ。そういえばこの「ファン」と言う言葉は何語?若しくは何 語の何と言う言葉から来ているのだろう?ボクは慌てて6カ国語会話集で「like」に 相当する言葉を探した。あった、あった。「ボン!」。「ボン?」。「ウィ ボ ン」。どうやら通じた。会話とはかくほどに難しいものなのだ。


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