仏蘭西紀行

18 パリ発、国際寝台夜行列車

 パリは9月も中旬を過ぎると、もうかなり寒い。ブラブラすれどもあてもなく、東駅に戻る。駅は列車を待つ人で一杯。日本の駅ではとうてい見ることの出来ない様々な人種がいる。ボクもその異邦人の一人なのだ。しかし、寒い。自転車と共に上着類も全て一緒に消えた。着の身着のまましかない。あまりに寒いのでシュラフにくるまり、しゃがみ込む。そして、少し寝る。

 やっと列車の時刻。トレインNo.を確認して乗り込む。生まれて初めて乗る寝台夜行列車が国際列車なんてスゴイ!と我が事ながら思う。チケットを見ながら、どうにか自分のベッドを見つける。本当にどうにかである。今、手元に残っているそのときのチケットを見ても、どの数字がベッドのNo.だかさっぱり見当も付かない。どうしてもという必要に迫られれば、結構どうにかなってしまうのだ。そこまで自分を追い込むこともたまには必要なんじゃないかとおもう。一部屋(一車両に何部屋あるのかは覚えていない)には三段ベッドが向かい合って2列あるので、計6人だが、ボクを入れても5人しかいない。ベッドがひとつ空いている。全て埋まらないこともあるようだ。

 列車は定刻を少し過ぎて動き出した。寝台車の狭いベッドとはいえ、久々の布団。リヨンを出て1週間ぶりのベッドだ。嬉しくてすぐに寝付く。ってまぁ、いつものことなのだけど。

 そのうちに車掌が改札が回ってきた。そう、日本とは違い、改札口というようなものはなく、列車に乗ってから改札が来るのだ。ボクは自分の持っていたチケットを2枚とも渡した。すると車掌はそれを見て「乗車券は?」と頓珍漢なことをきいてきた。「はぁ?それが乗車券でっしゃろ」と大阪弁ではなく、一応英語で答えたら、「こいつは2枚とも寝台の予約券だぜ」ときたもんだ。一瞬、頭の中が真っ白になってしまった。なんてこったい!この部屋の空いているベッドは、たまたま埋まらなかったのではなくて、ボクがおさえていたのだ!もしかするとそのせいで乗ることが出来なかった人だっているのかもしれない。すると乗車券は?どうなる?列車はもう動き出している。まさか、途中で強制的に降ろされることもあるまい。

 大体、列車に乗ってから改札なんかするからこんな事が起きるのだ!ちゃんと日本のように改札口があれば、こんな事は未然に防げたのだ。切符売り場の奴も奴だ。2枚も予約券を買っているのだから、乗車券は要らないのかどうかくらい聞いてくれれば良かったのだ(もしかしたら聞いてくれていたのかも知れないけど)。などなど、責任の転嫁先を一瞬のうちに色々と考えてはみたものの、事態は何も解消はしないし、今更どうしようもないのだ。なすがまま。車掌に「じゃぁ、今、乗車券を売ってくれ」と言うと、それは出来ないと言う。車掌も困っている。あまり会話が複雑になるとさっぱり解らない。こんな時は解らない者の方が強い。車掌がどこかに出ていってしまったので、ボクはまたベッドに潜り込んだ。



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