回転木馬の独り言

2004年3月

 前回から随分間が空いてしまいましたが、連載を再開します。

 ボクが自転車屋になった頃、自転車業界ではMTBブームが始まった頃だった。90年頃の話しだ。当時は国内メーカーもまだまだ元気で、アラヤのマディーフォックスを始め、パナソニックのワイルドキャット、ミヤタのリッヂランナー、丸石のブラックイーグル(コレは今一元気が無かったように記憶している)、ブリヂストンは何だっけか?(当時の自転車倶楽部では基本的にブリヂストンを扱っていなかったので記憶が薄い)等々、皆良いバイクを作っていた。

 中でもミヤタが元気だった。当時、主力で扱っていたのでそう記憶しているだけかも知れないが、色々と新しい事をやっていた。フルアルミの接着フレームなどもかなり先進的だった。会社創設100周年を記念して、カーボンフレームなどもやり始めていた。

 だけど、保守的なボクはケルビムのMTBに乗り続けた.。他にボクをクラッとさせるようなバイクが無かったのだ。そんなわけで、自転車屋になってからも当分は新車を組むことなく、大手術で蘇ったMTBを時々パーツを交換しながら乗り続けた。

 そう、パーツだけは結構交換した。特にシマノが初めてハイパー・グライド(HG)システムと共にラピッドファイヤーシフターを世に出したとき、その変速システムは、まるで魔法のようだった。今では、レバーをカチッとやると確実にシフトするのが当然のようになっているが、それまでは決してそうではなかった。確かに、シマノ・インデックス・システム(S.I.S)はHG以前のユニ・グライド(UG)システムの頃から登場していたが、今ひとつな感じだった。このHGシステムは「登りで踏み込んでいても変速する」と言う宣伝文句だった。ボクは内心「ホンマかいなぁ」と疑いながらも、自分のMTBにインストゥールして、キツイ登りのある近所の湘南平に行って試してみた。一番キツイ所で12%の登り。ここで、わざと重たいギアで登りつつ、一段軽くするべく、ラピッドファイヤーレバーを押した。するとパチンと軽くなった。こりゃ凄い!そう、当時コレは凄いことだったのだ。但し、ボク自身の中では、フロントの変速が今一好きになれず、リアはラピッドファイヤー、フロントは従来のサムシフターを使っていた。

 そんなある日、何人かの仲間と信州の峠に走りに行った下りでの事。仲間の一人が乗っていたミヤタのフルカーボンフレームのMTBが気になり、チョロっと乗らせてもらったら、これが、えらい楽でビックリ。コレはずるいとすら思った。ダートの下りで、振動がほとんど伝わってこないのだ。だから、楽だし、楽だからスピードが出せる、これはずるい、となるわけ。

 当時はまだサスペンションなんて無かったから、フレームその物の振動吸収性は非常に大切だった。それで、アルミの柔らかさを活かしてショック吸収を良くしようと、アルミフレームも出てきたが、アルミはショック吸収も良い代わりに、踏み心地も柔らかく、力が逃げるような感じだった。それが、このカーボンフレームのMTBはどうだ。踏み込めばその分、グイグイ進む感じは残しつつ、確実にショックは吸収している。しかも軽い!(これらは全て当時の感覚で、と言うことだが)自分のMTBが急にダメに思えてきた。

 コレは困った。久しぶりにクラッとさせられた。しかし、サイズが問題。470mmまでしか出ていないのだ。今まで乗っていたケルビムのMTBは580mm。まぁ、大切なのはトップ長さだとは言え、流石に小さすぎる。残念至極。欲しいけれど、サイズが無いのでは仕方がない。諦めるしか無いのか・・・と思っていたら、当時仲の良かった ミヤタの営業さんから嬉しい情報を貰った。輸出用(そう、当時は輸出もしていたのだ!)に は520mmと言うのが有るから、それを回してあげようか、と。

 そんなわけで、ついに2台目となるMTB、ミヤタのフルカーボンを手に入れた。パーツもなるべく、当時の最新の物で組んだ。基本的にはフルXTで、初めてサスペンションも着けた。ロックショックスのMAG20。

 しかし、このバイク、520mmと言うフレームサイズの割にはヘッドチューブが短い。つまりシート高さに対してヘッド高さが随分と低いのだ。お陰で、かなり長めのスペーサーをかまし、凄く首上がりのステムを使わないとポジションが出せなかった。後日、ミヤタの開発部署の人と知り合い、そんな話しをしたところ「そうなんです、アレは失敗でした。あの後のモデルからはヘッドチューブも長くしたんです」とのこと。そうか!失敗作だったのか!って疑問が解消したって、問題は解消しない。フレームを交換してくれるのなら解消もしようが、そのままなんだから。

 最初はXCレースにも使っていたこのバイク。今は下り系へと用途をかえ、今も元気にしている。何せ頑丈なフレームなもんで、全然壊れない。いや、別に壊れて欲しいわけでは無いけれど・・・。なんてこと言いながら、ホントは買い換える踏ん切りをつけるために壊れないかなぁとちょっとだけ思っていた。けど、壊れないまま、3台目のMTBを組んだので、今度は、このまま壊れず居てくれよなんて思っている。勝手なものだ。


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